『樹洞』(神奈川県立生命の星・地球博物館)
 神奈川県立生命の星・地球博物館で開催中の特別展「木の洞をのぞいてみたら-樹洞の生きものたち-」の図録として刊行されたものです。樹木の内部構造や木材腐朽菌による樹洞の形成に始まり、ほ乳類、鳥類、両生爬虫類、甲虫類など多種多様な動物が、さまざまな方法で生活の場として樹洞を利用していることが、多くの写真を使って示されています。ムササビやキツツキ類のようにポピュラーな種類だけではなく、特殊な利用者も数多く紹介されており、フクロウが営巣に利用した樹洞に残されたペリットを餌にするコブナシコブスジコガネ、洞にたまった水に産卵するというキイロハラビロトンボなどに興味をそそられました。また、西丹沢で木の根元の樹洞に設置された自動撮影カメラの映像も面白く、ヒメネズミ、ヤマネなどの齧歯類だけでなく、コウモリ類やテンも撮影されているのが愉快です。本書の主たるテーマは生きた木の樹洞ですが、そうした空間は、木の裂け目とか樹皮の割れ目、枝の又のくぼみ、枯れ木の洞などと連続性があり、それぞれの種によって利用の範囲も違っているのでしょう。そうしたことも総覧しておいてもらえると、大木ばかりが大事なわけではないことが伝わったのではないかと思いました。(2009/9)