『森林のはたらきを評価する』(中村太士・柿澤宏昭編著/北海道大学出版会/4000円+税)
 北海道庁が作成した「北海道森林機能評価基準」について、その成立にいたる背景や、白老町において実際にその基準が適用されて、森林の評価と、将来計画のゾーニングがなされた経緯が中心に紹介された本です。オールカラーで、見やすくレイアウトもされていて、こうした内容の本としては分かりやすく読んでいくことができます。この基準では、森林の働きを、水土保全機能(洪水緩和や土砂流出防止など)、生活環境保全機能(二酸化炭素の吸収貯蓄や防風など)、生態系保全機能(希少種の分布や多様性)、文化創造機能(郷土性・眺望性など)、木材生産機能の5つに整理し、それぞれについて現地調査の方法と、それによる点数評価の方法が定められています。現地調査が少々難しそうな項目もありますが、この本の副題が「市民による森づくりに向けて」とあるように、専門家だけが調査するということではなく、森に関心を持つ人が参画しながら調査を進められるような工夫がされています。そのシートも資料として収録されているので、身近な場所で実際に試みてみることが、十分可能でしょう。なお、基準そのものについては、北海道庁のホームページで公開されています。http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/srk/hyouka/standard/index.htm この本で印象的であった点は、自然科学の研究者がまとめたものなのに、単一の解を求める態度が前提とされていない点でした。たとえば、第1章に、「なぜ森林の機能評価なのか」という項目があり、評価には、強いられたもの、説明するためのもの、主張するためのもの、学びと協働のためのものの4通りがあると述べられています。ここでは、森林の存在が社会的であり、さまざまな立場からの関わりがあることが前提にされています。また、第7章の今後の方針の中では、森林の機能についての将来像が、たとえば原生自然の保全と林業生産は必ずしも両立できるとは限らないことが率直に述べられており、その調整は行政と市民、さらに研究者も加わった合意形成の中で行われるべきとされています。森林だけでなく、環境保全活動に関わっている人に広く読んでほしい本だと感じました。(2009/7)