『カビの暮らし発見ガイド』(細矢剛・出川洋介・勝本謙著/全国農村教育協会/2300円+税)
 昨秋、国立科学博物館で開催された「菌類のふしぎ」展にちなんで、カビの生態をテーマに刊行された本です。序章「カビの世界の扉を開ける」では、ミカンにカビが広がっていくようすの"美しい"写真に始まり、カビが発酵食品や医薬品を通じて我々の生活に役立っていることが紹介されます。第1章「カビのしわざを探す」では、肉眼で見つけるカビの生活として、サクラの天狗巣病、ツツジのモチ病、あるいは昆虫にとりつくハエカビのように、ふだんの生活でよく見かける現象に原因がカビ類であるものが少なくないことが紹介されます。その中には、オニタビラコの浮腫病、竹の赤衣病のように、野外ではしばしば見かけるのに何だろうと思うばかりで、正体を調べ損ねていたものも多くありました。第2章「カビの姿に迫る」では、ルーペや顕微鏡で見たカビの姿が紹介されます。ミズキの幹からしみ出した樹液が橙色に発酵しているのも時々見かけるのですが、これもカビの仕業であるそうで、フサリウムというそのカビの胞子の写真が出ていました。第3章「カビを捕まえよう」では、水中や土の中から、カビの餌になる物を使って、カビを探す方法が紹介されており、それを示す「カビを釣る」という表現がユーモラスでした。小学校の理科の授業で、スルメを池に吊して"ミズカビを釣った"ことを思い出しました。中学校のクラブ活動では、シャーレに寒天培地を作って、空気中のカビを捕らえたのですが、この本にはそうした培地による観察が出てこないのには理由があるのかが気になりました。最後の第4章「カビの図鑑」では身近で見られる90種が紹介されています。同じ菌類でも、キノコに比べるとカビはどうもとっつきにくい感じがするのですが、本書は巧みな構成でカビへの興味を引き出すのに成功していると感じました。(2009/6)