『森の力-育む、癒す、地域をつくる』(浜田久美子著/岩波新書/740円+税)
 まえがきに著者自身が山仕事の体験をしたことで得た感動を述べ、第1章では自然の中での保育活動(以前紹介した『土の匂いのする子』の主人公である「青空自主保育なかよし会」)を紹介して本が始まっているので、森林のソフト面の効果について述べた本だろうと気軽に読み始めたのですが、章を追うに従って、日本の森林の現状、あるいは林業の問題点について鋭く指摘したルポになっていて、途中から襟を正して読み進めました。各地で、さまざまな森との関わりの活動を進めているリーダー的な人物への取材を中心に構成されており、高校生による森の聞き書き甲子園の活動(これも前に『森の人・人の森』を紹介しました)、長野県信濃町での森林セラピーを中心とした地域作り、愛知県の矢作川水系森林ボランティア協議会による人工林の健康診断活動、森林バイオマスの活用をビジネス展開している会社、岐阜県郡上八幡市で行われているプロの林業家の育成講座、国産材を使った木造建築が根付く仕組み作りに取り組む埼玉県の大工塾、佐賀県で進められている木造建築の設計コンペなどさまざまな試みが丁寧に紹介されています。こうした取材を通じて著者が知った日本の森林、特に人工林の現状というものは、戦後の拡大造林期に一気に面積が増えたのと、まったく時を同じくして林業自体の衰退が進み、植えたのはよいが、手入れのされない場所ばかりになってしまったということです。山の地権者も山仕事を知らない人が多くなっているという実情は憂うべきことでしょう。また、林業の衰退は安い外材の輸入によるとはよく言われることですが、人工乾燥して規格もそろった外材ばかりが建築に使われるようになったことで、国産の自然乾燥した材を上手にいかして木造建築を作る技術自体も、伝承が危ぶまれる事態に立ち至っているのだといいます。そうした、構造的な問題点を、取り組みをしている人に語らせていく手腕にはすぐれたものがあると感じました。全体を通して、日本の森林が大きな資産であるのに、それがいかされる施策がまったく遅れていることへのいらだちであり、各地ですぐれた実践が行われているのに、それが必ずしも国の施策には反映されていないことへの批判であると感じました。(2009/4)