『フィールド版 落葉広葉樹図譜』(斎藤新一郎著/共立出版/3800円+税)
本書の原形である『落葉広葉樹図譜-冬の樹木学』が刊行されたのは、既に30年も前のことですが、それを手にした時の印象は今でも鮮やかなものがあります。落葉広葉樹約240種の冬芽についての精緻な図版が魅力だったのはもちろんのこと、冬芽の見方が詳しく解説されていたのが何より勉強になりました。特に頂芽と仮頂芽の違いや、その生活上の意味は興味深く読みましたし、冬芽は春に展開する時にも見どころが多いことを教えられたのも本書でした。その後、冬芽についての写真図鑑がいくつか刊行されましたが、それらは冬芽の見分け方に重点が置かれすぎていて、冬芽の見方としては表層的で浅いものだという印象を否めませんでした。本書の総論の最後に書かれているように「枝先につつましくつく冬芽は、単なる樹種判別の基準ではなくて、樹木の歴史そのものの現れ」なのです。さて、新装版として今回刊行されたのは、ほとんど復刻というのに近いものですが、巻末に「冬芽からみた落葉樹林の歴史」という1章が加えられています。ここには、冬芽の起源が、樹木から草本、常緑樹から落葉樹へという植物の進化の歴史と関連づけて論じられています。それによれば、鱗片に包まれた冬芽は、最初は乾燥気候への適応として生まれ、後に寒冷地への分布拡大に役立ったと説明されています。少々硬い文体で教科書的な感じがしますが、手際よく植物の進化史がまとめられています。ただ、少々気になったのは、常緑樹から落葉樹への進化はさまざまな系統で並行して起こったことは確かなので、そうした見方が示されるべきではないかということです。特に裸芽と鱗芽では、後者がより厳しい環境に適応した形質だと述べられていますが、そこには系統的な見方を加えておく必要があるのではないかと感じました。なお、同じ内容で活字が大きい机上版も刊行されています。(2009/3)