『野鳥の名前』(安部直哉・叶内拓哉著/山と渓谷社/3200円+税)
 知る人ぞ知る筋金入りのバードウォッチャーであり、優れた文献渉猟家でもある安部直哉氏が博覧強記ぶりを発揮した鳥についての語源の解説書です。語源については、探鳥会で質問されることも多く、「アオジのジはジッと鳴くから」とか、「アマツバメは天がけるイメージから天燕」などと、つい、いい加減なことを口走ってしまうのですが、本書によれば前者は鳥を示す接尾語で、後者は雨燕が正しい表記だといいます。本書では、和名だけではなく、学名や時には英名についてもその語源についての紹介がされています。また、この本の楽しい点は、著者独自の見解がところどころに示されている点で、アオジについて安部氏は、ジは「児」で小鳥に対する親愛の情が込められているといいます。この本で、初めて知ったことも多く、イヌワシのイヌは模様のない尾羽がクマタカなどに比べて矢羽根として劣ることからつけられたのだそうです。またムクドリはムクノキの実を好むという説もあるが、ムクノキの樹洞でよく営巣することからつけられた名ではないかと著者は言います。ダイゼンは、宮中の食事係である大膳職から来ていて、よく食事に供されたことからの命名だといいますし、マナヅルのナも食用を意味するとのことで、食用からの命名が案外と多いことも知りました。解説には、備考欄があるのですが、そこには近縁種についての記述があったり、学名の解説であったり、時には本文の解説がそのまま続いていたりして位置づけが明瞭でなく、結局読まざるをえないにしては活字が小さくて不親切だと感じました。本書の主題から言えば、写真を小さくしてでも、テキストを重視すべきではなかったかという印象です。また、添えられているイラストが、嘴が曲がっていたり大きすぎたり、バランスの悪い鳥がいるのが気になりました。挿絵と割り切ればよいのでしょうが・・。(2008/12)