『アユと日本の川』(栗栖健著/築地書館/1800円+税)
 奈良県吉野川を舞台に、アユや川の生きものたちと人々の暮らしとの関わりを取材した本です。書名は少し大げさな感じで、「吉野川に見るアユと日本人の関わり」くらいにしておいた方が、より内容にあっていたのではないかと感じました。著者は新聞記者で、この本は毎日新聞奈良版に66回にわたって連載されたものをまとめたものです。記事として書かれただけに読みやすく、特に多くの人物が登場して、その人たちの言葉を通して、川のことが語られている点に大きな特色があります。民俗調査の対象になるような伝統漁法も、趣味としての釣りも、あるいは科学的研究も同じ土俵の上で扱っていくのが新聞記事ならではの視点でしょうが、そのあたりの特徴は存分に発揮されていると思いました。興味深かったのは、吉野川流域のアユ料理の数々で、「釣瓶鮨」というアユのなれ鮨であるとか、アユ雑炊、アユ煎餅という干物など、魚体の大きさや季節によってさまざまな利用がされているところに生活との関わりの深さを感じました。後半では、魚を中心に吉野川の生きものがいろいろ登場しますが、清流の残っていると言える吉野川であっても、アカザのような魚やカジカガエルが目立って減ってきているそうで、他の日本の川においておやという感じを受けます。川遊びが流域の子供たちの成長の糧であったことにも再三ふれられ、そのあたりに著者の願いがこめられているようです。(2008/10)