『釣魚識別図鑑』(小西英人著・中坊徹次編/エンターブレイン/1600円+税)

 海釣りの獲物になる魚の中で、よく似たものをペアにして、相違点を図示するという方法で作られた図鑑で、全体で約130組、270種弱が紹介されています。似たものという中には、近縁種だけでなく、同じ種の雌雄や成魚と幼魚なども取り上げられており、また、中坊博士の監修のもと、メバルの3型のように近年別種と認識されるようになったものなど最新の情報も反映されています。私は釣りの趣味を持っていないので、この図鑑がどの程度、実用的なものかはよく分からないのですが、現場で判断に迷うものの見分けに徹した構成はユニークなものだと感じました。博物館の仕事で、海の魚の標本を集めていた時に、漁師さんに教わったマルソウダとヒラソウダ、アカカマスとヤマトカマスの違いなどを懐かしく思い出しました。また、「自慢」という項目があり、何cm以上のものが釣れたら自慢してよいというサイズが出ているのは、釣り人用たる所以でしょうか。ちょっとびっくりしたことは、タイリクスズキというもともと養殖されていた外国の種が、あちこちで釣れるようになっているという記述で、海水魚にまで外来種問題が生じているようです。著者の後書きによると、釣り人の中に大きな魚を釣ることよりも、魚の種類や多様性に興味を持つ人が増えているとのことで、そうした人たちの提供した写真も、本書の編集に役に立ったようです。イギリスにはアングラーナチュラリストという存在がいるという話を聞いたことがありますが、そうした傾向は好ましいことだと思います。(2008/8)