『土の匂いの子』(相川明子編著/コモンズ/1300円+税)

 20年余りにわたって「青空自主保育なかよし会」の保育者として活動としてきた編者が、仲間の保護者とともにその活動を振り返ってまとめた本です。この会では、1歳児から3歳児までの幼児を対象として、鎌倉市の山崎谷戸などをフィールドに週に2,3日の活動を続けて来ました。湿地で泥んこになったり、木の根につかまって崖を登ったり、子どもたちが自由に野山の自然の中で遊ぶことが活動の中心だそうで、表紙にある、泥だらけになった元気な裸ん坊の姿が、その保育のようすを端的に示しているようです。自然とふれあう中で、子どもたちが自分の力でさまざまな宝物を見つけ出したり、それを五感で感じ取ったり、楽しみ方を発明したりするようすが生き生きと語られています。大人が極力口や手を出さないと言う保育の中で、子どもたちはお互いに助け合ったり、教え合ったりすることを自然に身につけていくとも言います。私自身、子どもたちの成長にとって、自然との接触が重要ということは、多くの機会に書きもし、言いもしてきたことですが、乳幼児に関しては直接野外に連れ出した経験は自分の子供以外にはごく乏しいことです。この本の中では、「へびを見ても驚かない、蚊が飛び回っても気にしないおとなが身近にいるだけで、生きものと共存する暮らしを素直に受け入れられるようになる」「肌でじかに触れると喜怒哀楽が増える」「匂いの感覚は記憶の奥深くにしみこむものだから、幼い時期にさまざまな匂いを自然の中で嗅いでみる経験が必要」など、野外の自然とのふれあいが、子供たちの五感を育て、それが彼らの成長の糧になることが、確かな言葉で語られていて、大変嬉しくなりました。こうした記述は、暖かい保育者であると同時に、おそらく冷静な観察者でもある編者の資質がもたらしたものと思われます。20年間の活動の積み重ねの中で、多くの保護者が山崎谷戸の保全活動に参加したり、保育にかかわるさまざまな活動の中心となっていったり、親自身の成長があったことも誇らしく語られています。これからの地域社会に欠かせないコミュニティーの姿がここにあるように感じられます。また、こうした活動の場としての山崎の谷戸の存在は非常に大きな意義があったでしょう。子供たちが自然と直に触れあえる場を守っていくことの重要性を改めて感じました。(2008/5)