『クモの網』(INAX出版/INAXギャラリー企画委員会編/1500円+税)

 船曳和代氏によるクモの網の標本は、クモの同好者の間ではしばしば話題にのぼるものですが、INAXギャラリー大阪でその展覧会が開かれており、その展示図録として刊行されたのが本書です。秋には東京にも巡回されるということで、実物に接するのが楽しみです。クモの網に白いラッカーを吹き付け、糊を引いた厚紙にすくい取るという方法で作成された標本は、クモの網の造形を余すところなく写し取っていて、その繊細さには目を見張るものがあります。オニグモ類のように平面的な網だけではなく、サラグモ類などの立体的な構造の網も、その感じがよく出ていて、記録性の高い優れた技法だと感じました。表紙にもなっている、スズミグモの細かいレースのような網は特に見事なものです。ヒメグモ類・オウギグモ・ヨリメグモ・ゴミグモ・ウズグモなどさまざまな網の形のバリエーションが網羅されていて、クモの網の博物誌としての意義にも大きいものがあります。餌の捕獲法についても、補足的なコメントが添えられています。巻末にある新海明氏による「糸が紡ぐ世界」というクモの網についての分かりやすい解説も読み応えがありました。クモの生活に興味のある方には必見の文献と言えるでしょう。(2008/5)