『ダック・コール』(稲見一良著/ハヤカワ文庫/640円+税)

   20年のトータルランク6位に入っている『ダック・コール』という作品が野鳥をモチーフにした短編集だということを知りました。悩みを抱えた青年が、河原の石を拾ってはその上にアクリル絵の具で鳥の絵を描いている老人と出会い、その作品を見ている内に眠り込んで見た夢という設定で、6編の物語が収録されています。冒険小説的なもの、メルヘン的なものと作風も舞台もさまざまで、ミステリーという範疇に入るものなのかはよく分からないのですが、自然の描写は美しく、その点は楽しむことができました。コジュケイの群れの飛びたちを「黄と褐色と金に散る野の花火」と表現するような作家には出会ったことがなかったように思います。鳥についての描写は、狩猟の体験に基づくものらしく、その感覚は全面的に共感したわけでもないのですが、こうしたアウトドアノベルとでも言うのでしょうか、ヘミングウェーに連なるようなジャンルの作品がもっとあってもよいと思いました。2作目の「パッセンジャー」は、特に変わった題材の作品で、舞台は前世紀のアメリカ、リョコウバトの殺戮とも言える狩猟の現場に立ち会うことになった青年の体験を描いたもので、オージュボンの画集に描かれたリョコウバトの姿から連想した作品だと言います。作家の想像力というのは、思いもかけない飛躍をするものだと感心しました。(2008/3)