『アリハンドブック』(寺山守解説・久保田敏写真/文一総合出版/1400円+税)
 アリについては、『日本産アリ類全種図鑑』(学研)があるので、名前調べの参考文献は十二分なのですが、身近な種類について手頃なハンドブックが刊行されたのは嬉しいことです。日本産約280種の中で、90種が標本写真と生態写真で図示されており、代表的な種類を紹介するというだけではなく、10亜科すべてが取り上げられているので、日本のアリ類の全体像が把握できる構成になっています。大きな特徴は、形態についてのテキストに番号がつけられ、標本写真の中でその部位が示されているということです。大変親切なこの方法によって、初心者でも名前調べのよい手がかりが与えられています。通読して思ったのは、アリ類全体で見ると小動物の捕食者として生活している種が意外に多いということ、また照葉樹林の林床のアリ相の豊かさといったことでした。よく知られた種のほとんどは後半に登場しますから、後ろから読んでいくというのも親しみやすいかもしれません。最後のページに出ているトゲアリは、学生時代最初に自分たちで開いた観察会で厚木の白山に登ったとき、頂上のスダジイの樹洞に群れていたのを懐かしく思い出しました。(2010/2)