『地衣類のふしぎ』(柏谷博之著/サイエンスアイ新書/952円+税)
 キノコやコケに比べて地衣類のことをわかりやすく書いた本は乏しいのですが、読みやすい格好の入門書が刊行されました。著者は、国立科学博物館などで活躍された地衣類の専門家で、鮮明な写真を使いながら、地衣類の基本的な体のつくりや生殖方法に始まり、その分類、身近で見られるおもな種類、観察や研究の方法、化学成分による分類、人間生活との関わりなどがやさしく紹介されています。やさしくといっても、地衣類独特の用語が多くあって、少しとまどうこともありますが、多くの写真に助けられて興味深く読んでいくことができます。新書でもカラー写真がふんだんに使われるようになったのは、大変ありがたいことだと思いました。南極、ハワイ、ニューギニア、北極圏など諸外国での調査体験などもちりばめられていて、若い人が読めば、地衣類の研究を志したくなるのではないか、そんな気持ちにさせられました。地衣類は菌類と藻類が共生して体を作っていることは、誰もが知っていることですが、胞子で増えた場合に、どうやって藻類と出会うのかははっきりしていないのだそうで、未知なことが多いことを改めて感じました。また、地衣類にも絶滅危惧種が多くなっているということで、昔、丹沢でよく見かけたサルオガセ類を近年はすっかり見なくなったことを思い出しました。(2009/12)