『ゴルフ場は自然がいっぱい』(田中淳夫著/ちくま新書/740円+税)
 はしがきで著者が述べているように、ゴルフ場を環境破壊の元凶と見る人は多いでしょうし、私もその一人です。著者はゴルフ好きの立場でそれを擁護しようと言うことではなくて、ゴルフ場批判には偏見がありそうなので、客観的にその功罪を検証してみるという趣旨で取材にあたったそうです。著者が、この本で述べているのは、ゴルフ場建設反対運動の歴史と経緯、森林破壊への影響、農薬などについてです。森林については、ゴルフ場が建設された周辺地域も含めた、一定地域の土地利用変化を追った研究を例にあげ、場内にも相当面積の森林が残ること、周辺地域での耕作放棄による樹林化の影響もあって、全体として森林面積が減ってはいないとされています。農薬については、特に現在では、ゴルフ場自体が総合防除という考え方で、農薬を極力減らすような努力をしており、農耕地に比較して特に投薬量が多いということはないと結論づけています。また、ゴルフ場は全体として、樹林地と草地がバランスよく配置された里山的な景観を持っており、その積極的な評価も必要ではないかとしています。地域社会との接点を多く持った新しいタイプのゴルフ場の取り組みも紹介されており、雇用などの側面も含めると、ある地域の土地利用の選択肢の一つとして検討の価値があるということが本書の結論です。読後に感じたことは、ゴルフ場が里山をかかえた地域の活性化に有用であると言えたとしても、具体的に自分が関わって愛着を持っている場所の将来の選択肢の一つとして認められるかというと、そうはいかないということです。やはり閉鎖的な空間になってしまうことへの抵抗感には大きなものがあります。(2009/11)