『狐闇』(北森鴻著/講談社文庫/762円+税)、『狐罠』(北森鴻著/講談社文庫/743円+税)

 私の楽しみの読書のほとんどは推理小説なのですが、久しぶりに読み応えのある作品に巡り会ったので紹介したいと思います。最近は、世相を反映してか、推理小説の世界も、いじめとか、無差別殺人とかを取り上げたものが多くていささか辟易してきていたので、女性骨董商を主人公とするは新鮮な印象でしたし、端正な文体も好みに合いました。冒頭の『狐闇』、骨董品の競り市の会場が平塚だったり、平塚に縁の深い三角縁神獣鏡が事件のキーであったりという点も親しみを感じました。旧家に伝わってきた鏡の秘密を知った主人公が危機に陥り、それを女性カメラマンや民俗学者が協力して謎を解き明かしていくという話ですが、その背景に、天皇陵の盗掘だとか、古代に於ける製鉄技術をめぐる争い、明治初年の征韓論など、さまざまな歴史要素がちりばめられていて、一気に読み進みました。その後、同じ主人公の最初の作品『狐罠』も読んだのですが、こちらは古美術品の贋作がテーマで、最後まで誰が敵か味方か分からず、さらに主人公も贋作を使った作戦をしかけているので、何が悪で何が善なのかも判然としないという、手のこんだ推理小説ならではの醍醐味が味わえました。後者の方で、気になる一文を見つけたのですが、東洋人の黒い瞳の方が余分な光がシャットアウトされるので、青い瞳の西洋人に比べて、より精密な絵付けが可能だというのです。とすれば、東洋人の方が自然も鮮明に見えていることになるのでしょうか、真偽のほどが知りたいと思いました。

(2007/10)