『日本の希少鳥類を守る』(山岸哲編著/京都大学学術出版会/3500円+税)
 日本国内で絶滅の恐れがあるとして、積極的な保全活動が展開されている代表的な鳥類12種について、その保全活動を第一線でリードしている研究者が、それぞれの種の現状、減少の原因、保全活動の経緯と成果、今後の課題などについてまとめた本です。登場するのは、トキ・アホウドリ・ヤンバルクイナ・シマフクロウ・シジュウカラガン・ライチョウ・オオワシ・オオタカ・チョウゲンボウ・ブッポウソウ・タンチョウ・コウノトリで、日本の希少鳥類の顔ぶれがそろっています。一読して感じるのは、それぞれの種の保全について、いかに多くの人が関わり、いかに大きな努力を続けてきたかということ、また、その努力が単に鳥の種を守るというだけではなく、その生息環境を地域の合意として保全していこうという機運を育んできているということです。最後のコウノトリの章を、中貝豊岡市長が執筆されているのが、その端的な表れでしょう。こうしたことは、四半世紀前であれば、考えられなかったことで、この間の関係者の努力と環境省などの支援を改めて感謝したいと思います。もちろん、前途が明るい種ばかりというわけではなく、ライチョウでは温暖化や大型ほ乳類の高山への進出などが原因で、今後の衰退が予測され、予防的な対策の必要が強く述べられています。また、この12種のような花形種ばかりに注目するのはバランスを欠くという意見も当然あるでしょうが、そのあたりは各章に添えられたコラムが上手に補足していて、化学汚染、外来種、生息地の開発、国際連携の必要性、風力発電など幅広い問題点が、要領よくまとめられています。ただ、干潟の保全には、きちんと触れて欲しかったところです。全体を通して感じたのは、こうした保全活動に必要なコストについて、もう少し具体的に述べられてもよかったのではないかということです。一度絶滅に瀕した種を回復させるのは膨大な経費がかかるといった抽象的な表現は出てきますが、具体的にどのくらいの費用がかかり、それを誰が負担して保全を進めているのか、そうしたこともみんなが認識すべき時代にきているのではないでしょうか。また、巻末には全国的な保全活動の事例や関係団体の一覧表が出ているのですが、参加を促す目的であれば、連絡先を書くべきではなかったかと思いました。(2009/8)