『わたしの山の博物誌』(水越武著/新潮社/3200円+税)
 久しぶりに写真集を見たくなって手にとった本です。山岳写真家は少なくありませんが、そのほとんどは岩や雪の無機的なフォルムに魅力を感じているようで、動植物や気象現象を添え物としてではなく、主題にすえた作品を発表している人は、田淵行男氏を別格として、はなはだ少数派と言えるでしょう。田淵氏直系の弟子であるという著者は、その数少ない一人です。この本は、博物誌と銘打っているように、長年の撮影の中から、動植物や自然現象を主題にした作品約120点を集めたものです。その背景に山の厳しさもかいま見られて、楽しいだけでなく、厳粛な気持ちで見ていきました。ライチョウ・高山植物・冬の季節風・ハイマツ・天空・ウスバキチョウ・ブナ林など12のテーマにそって構成されていますが、私が特に印象深く読んだのは「梅雨の山」という章でした。その章の中で、著者は「自然に心を浸し、より広い視野から山を捉えようと意識が変わることによって、雨に目ざめたのだ」と記し、雨の山を歩き回ることで、霧に乗って運ばれてくるさまざまな森の香りと出会ったり、濡れた花や木の葉の鮮やかな色に驚く体験ができたと述べています。雨好きな私としては、おおいに共感したことでした。(2009/8)