『身近な雑草のふしぎ』(森昭彦著/サイエンスアイ新書/952円+税)

『野の花さんぽ図鑑』(長谷川哲雄著/築地書館/2400円+税)

    最近は写真図鑑が全盛ですが、イラストを使った植物のガイドブックが2冊刊行されたので、さっそく手にとってみました。まず、『身近な雑草のふしぎ』は、帯に超美麗イラストとあって、ちょっと期待したのですが、率直にいって期待はずれでした。イラストは、写真と比べると、葉の出方とか花の付き方のような、植物の体制を明瞭に示すことに意義があると思うのですが、その基本が理解されているとは思えないカットがあちこちに見られました。写真についても、ヘビイチゴ・イラクサ・サルトリイバラの実の写真は別種のように見えます。また、クサフジのページは、写真も解説も帰化種のナヨクサフジのことのように思えます。シロザが5枚の小葉を持つとか、不適切なテキストも目に付き、種・変種・品種といった言葉の使い方にも首をかしげる箇所が多くありました。多少とも植物に詳しい方は、間違い探しをしながら読んでいくのが勉強になるかもしれません。ただ、著者は、ガーデナーと称しているように、栽培植物に造詣が深いようで、毒草や薬草、ハーブなどに含まれる植物成分にふれた部分には興味深い記述もありました。一方、『野の花さんぽ図鑑』は、生物画の第一人者の作品だけあって、精緻で鑑賞に堪える美しい絵が並び、楽しくページをめくっていくことができます。啓蟄に始まって、二十四節気順に構成され、植物の世界の季節変化をたどることができるようになっています。路傍、雑木林、河原など身近な環境が取り上げられているだけでなく、ケヤキ林のように自然度の高い場所も扱われているので、レンプクソウのように出会う機会の少ない植物が登場するのも嬉しいことです。また、個別の種類の紹介だけでなく、その環境で数種が一緒に生えているようすが表現されている絵も多く含まれています。花だけでなく、芽生えや実、根のようすなど植物の生活全体にも目配りがされ、花にやってくる虫もチョウとハナバチが図解されているなど、自然観察の手引きとしても役に立ちます。半分ほど読み進んだ時に、二十数年前のこと、確か雑誌アニマの編集部からイラストページの下絵のチェックを依頼され、そのイラストレーターの名が長谷川氏であったという記憶が忽然と甦ってきました。その頃から、虫と花を関連づけて描くようなことをされていたのも思い出し、ひそかに再会を喜んだことでした。樹木を中心とした続編を期待したいと思いますが、あえて難点を言えば、判型が外へ持って出るのには適さないことでしょうか。帯には、「超ガイド書」という言葉が刷られているのですが、こうした安っぽい妙な表現はやめた方がよいとも思いました。(2009/7)