『深海魚 暗黒街のモンスターたち』(尼岡邦夫著/ブックマン社/3619円+税)
 深海魚というと、子供向けの学習図鑑に、黒バックで口の大きい魚や、発光する種類を紹介したページがあって、不思議な生きものがいるものだと印象深く覚えている人が多いでしょう。本書は、そうした深海魚を専門に研究されてきた研究者による図鑑で、全世界の深海魚260種が、おもに採集直後の新鮮な標本の写真で紹介されており、その奇怪な姿の写真を見ていくだけでも、素朴な好奇心をくすぐられます。分類順ではなく、発光、発音、発電、摂餌、感覚など深海魚の生活に即した10のテーマに分けて構成され、それぞれに直結した形態や生態を中心に解説がされて、全体として深海魚の生活ぶりがよく理解されるような工夫がされています。発光一つをとっても、その働きはさまざまで、薄明かりの中での魚体のカムフラージュ、サーチライトとして獲物を探す、ルアーとして獲物をおびき寄せる、敵を驚かせる、雌雄のコミュニケーションなどさまざまな働きがあると言います。竿の先に光るルアーをつけたチョウチンアンコウの仲間には、その竿の先を口の中にまで動かして餌になる動物を誘い込む技を持っている種がいるそうで、餌資源の乏しい深海の環境への巧みな適応に驚かされます。私の深海魚への興味は、漂着物としてなので、いつの日かどこかの海岸で、いずれかのモンスターに出会いたいものと思いました。ベテラン研究者が書かれたものなのに、「面白いです」といった気になる表現が頻出するのが残念でした。(2009/7)