『オトシブミハンドブック』(安田守・沢田佳久著/文一総合出版/1200円+税)
 初夏の雑木林に出かけてオトシブミの仕事ぶりに目を向けるのを楽しみにしている方は多いのではないでしょうか。ノイバラを巻くヒメクロオトシブミ、キブシを巻くウスモンオトシブミ、エビヅルを巻くブドウハマキチョッキリなど昔から親しんできた虫たちが主役を務める本が出て、心楽しくページをめくりました。愛すべきこの虫たちの図鑑が出たことが、何よりも嬉しく感じられました。本書では、ゆりかご状に葉を巻いたり、実を切り落としたりするオトシブミとチョッキリの日本産全種にあたる30種が取り上げられており、観察の心強い資料になります。また、ゆりかごを作らないチョッキリについても代表的な9種が掲載されています。ユニークなのは写真で、標本写真ではなくて、自然に歩いているところを斜め上からとらえた画像が使われています。大きさも実物の10倍くらいあるので、点刻のような形態上の細かい特徴も十二分に見てとれます。ゆりかごについても、作成過程を含めて複数の写真が使われ、生活ぶりを理解することができるようになっています。特に小型のチョッキリについては、ゆりかごの写真をまとまって見る機会がなかったので、おおいに参考になります。あえて、気になった点をあげれば、これは著者の責任ではないでしょうが、葉の切り方の狭裁型と両裁型という名称がどうもしっくりこないと思いました。また、オトシブミと言えば、葉を発酵させる菌類との共生に興味が持たれますが、そのことに触れられていないこともちょっと残念でした。(2009/6)