『生物多様性の日本』(森林環境研究会編著/朝日新聞出版/2000円+税)
 森林文化協会によって、2004年から毎年刊行されている森林をテーマにした年鑑的な刊行物で、今年のテーマとして「生物多様性」が取り上げられました。ちなみに昨年のテーマは「草と木のバイオマス」でした。全体の約半分が、この特集の記事にあてられ、10編の記事が掲載されています。その内容としては、草原、水田、人工林など特定の環境を取り上げて、それぞれの生物多様性の特性や、その保全について論考したもの、来年度名古屋で開催が予定されているCOP10(生物多様性条約の締約国による会議)に関連して、多様性をめぐる国際的な議論の動向を紹介したものなどが含まれています。実は、私も「市民が調べる地域の自然」として、神奈川県における、植物誌調査会や野鳥の会、また平塚市博物館の市民参加調査などを紹介させて頂きました。後半はトレンドレビューとして、2008年の話題が収められていますが、ここでも地球温暖化とともに生物多様性が中心となっており、先に述べたCOP10関連の記事や、千葉県で先進的に進められた生物多様性地域戦略について紹介されています。この中で、特に重要なのは、東京大学の保全生態学研究室による「すこやかな日本の里を指標する生物たち」という記事で、多様性に富んだ里地里山環境を評価するものさしとして、各分類群について指標種の案が提示されています。これについては、今後、各地での知見を合わせて、洗練させていく必要があるでしょう。最後に緑のデータテーブルという章があり、森林環境年表として、朝日新聞の記事の要約が月日順に収録されています。読んでいくとなかなか面白く、いわゆる獣害が各地で問題となっていること、温暖化との関係で森林バイオマス関係の試みが増えていることなどを知ることができます。記事の中に、中津川市加子母という地名を発見したのですが、つい最近読んだ内田康夫の推理小説『還らざる道』に出てくる国有林の不正事件の舞台がこの土地だったもので、不思議な因縁を感じました。ところで、本書のタイトルですが、日本語の語感として違和感がありました。よく考えてみると、これは「報道のNHK」というような時と同じ「の」の用法なのだと気づきましたが、その場合、「人気のセ、実力のパ」のように何となく複数のものを対比させて使うイメージがあり、それが座り心地の悪い原因かと感じました。また、日本の国土の特徴が生物多様性が高い点にあるということであれば、その所以についてもう少し書いて欲しかったところです。まえがきで少しは触れてあるのですが、ヨーロッパやアメリカと比べてどうなのか、具体的な記述があれば、参考になったと思います。(2009/4)