『ハチのふしぎとアリのなぞ』(矢島稔著/偕成社/1600円+税)
 豊島園や多摩動物公園で昆虫園を開設され、現在ぐんま昆虫の森の園長を務めておられる矢島先生から、昆虫の森での講演を依頼された関係で、近著を送って頂くことができました。『わたしの昆虫記』の6冊目にあたるという本著には、膜翅類についての観察記録が収録されていますが、それを進化の道筋にそって配列し、膜翅類の進化のようすを考えさせる物語になっている点に構成上の工夫があります。登場する昆虫は、クロヒラタキバチ、オオホシオナガバチ、サトジガバチ、クロアナバチ、ニホンミツバチ、キイロスズメバチ、クロオオアリ、サムライアリといった種類で、幼虫が木の材を食べるキバチに始まって、寄生性の種、狩人蜂、さらには社会性の種が取り上げられ、膜翅類の進化に関する岩田久仁雄氏の説にそった説明がされています。個々の種についての記述は、著者自身の観察によるもので、一般的な習性のほかに、サトジガバチでは、他個体が埋めて産卵した尺取り虫を横取りすることがあること、クロアナバチに寄生するヤドリバエの産卵、ニホンミツバチがキイロスズメバチを包み込んで熱によって倒す観察など、ナチュラリストとしての著者の本領が発揮された観察が出てきて、興味をかきたてられます。また、最後に登場するのは、クロシジミとクロオオアリの共生関係ですが、かつての武蔵野の雑木林にはクロシジミが少なくなかったと知って驚きました。(2009/3)