『先生、シマリスがヘビの頭をかじっています』(小林朋道著/築地書館/1600円+税)
 前作『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます』を読みそびれていたので、続編と聞いてさっそく購入しました。どちらの本も、「鳥取環境大学の森の人間動物行動学」という副題が付けられていて、動物行動学を専門とする著者が教授を務める大学での、実習や調査の中での動物との出会い、またそれに対する学生達の反応などが、楽しげな語り口で紹介されていきます。本書に登場する動物は、実験水田に現れたイノシシ、学内のサークルが飼育しているヤギ、飼育箱から脱走したアオダイショウ、源流の沢に生息する希少なナガレホトケドジョウ、実習現場に出現したテン、家族で飼っているイヌとネコなどさまざまなメンバーで、それぞれのエピソードについて行動学的な意味づけが添えられています。また、著者の目は人間の行動にも向けられていて、街中の落書きの意味が語られたりします。昨年から大学で仕事をするようになったものですから、著者のように軽やかに学生と接し、楽しげな実習が展開できるのは素晴らしいことと感心してしまいました。「それが聡明で用意周到な私の作戦なのである」といった少し自分を戯画化したような表現は、大学の先生に特有なのでしょうか、お茶の水大学で哲学を講じる土屋教授の文体を連想しました。こうした文体が学生に受け入れられやすいのであれば、研究せねばとちょっと思ったりしました。駅前広場でヤギを飼おうという提案がされている章があるのですが、そこでは駅前のモニュメントや遊具としてしばしば草食動物が配置されていることが紹介され、その理由としてヒトにとっては見晴らしのよい開けた環境で草食動物がいるという情景が安心感のある心地よい光景であり、それはヒトの祖先がもっとも長い時間を過ごした環境での記憶に基づいているという指摘があります。駅前の動物探し、というのは街の中の観察プログラムとして暖めていることの一つだったので、そこに理屈づけのヒントがもらえて嬉しく思いました。なお、表題になっているシマリスがヘビの頭をかじるというのは、著者が学生時代にした行動学上の一大発見で、シマリスが弱ったヘビに遭遇すると、その皮膚の一部をかじってその匂いを体になすりつけ、ヘビから身を守るために使うというものです。(2009/2)