『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(江守正多著/化学同人/1700円+税)
 2月1日に温暖化に関わるシンポジウムでパネラーを務めた関係で読んだのですが、国立環境研究所地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長という日本における温暖化予測の最前線の立場で仕事をしている著者が、温暖化の予測とは何かについて筋道を立てて語った本です。何度聞いても、つい忘れてしまうことですが、温暖化の予測とは、各地での継続的な気象観測の結果をまとめ、その単純な延長として予測されていることではありません。まず、太陽エネルギーの量やその変動、大気や水の挙動などについて、物理的な方程式の組み合わせから、コンピューター上に地球全体の気候の推移を再現したモデルが作られます。そのモデルに、未来の様々な条件を入力することによって、将来どんな気候が訪れるかを予測しているのだそうです。そこでは具体的な観測結果は、帰納的な判断をする前提条件として使われているわけではなくて、そのモデルがどのくらい現実に即しているかを計る基準として使われているものです。こうしたモデルは、各国の研究者がそれぞれ開発していて、少なくとも独立したモデルが約20あるのだそうです。そして、現在のような二酸化炭素を多く排出する社会が続くならば、温暖化がさらに促進されていくというのが、それらのモデルの多くに共通した結論なのだといいます。このモデルが、現状で完璧ではない点についても、率直に言及されており、気温が上昇した場合に森林の土壌生物の働きによる落ち葉などの分解の速度がどう変わっていくかなど、生物の挙動に関した部分は研究が不十分だといいます。温暖化予測については、批判的な意見も多く発表されていますが、いずれ氷河期に向かうとか、海洋の二酸化炭素吸収が無視されているとか、よく言われる意見は、すでにモデルの計算に取り込まれていることが多いのだと言います。コンピュータによる高度な計算によって作られているモデルなので、一人一人が直接実感できにくいことには、問題があるかもしれませんが、温暖化予測が、現時点で信頼できる仮説であることは間違いないと感じました。ただ、この本の守備範囲を離れた部分での個人的な意見ですが、現在、さまざまな自然現象やあるいは社会的な対策がすべて温暖化に結びつけて語られることには大いに違和感があります。人間活動の影響は、生物多様性、資源の持続的利用など幅広いさまざまな観点から評価されていかないといけないのではないでしょうか。(2009/2)