『地図もウソをつく』(竹内正浩著/文春新書/750円+税)
 『点の記』を読んだこと、また学習地図帳の監修を頼まれたことで、地図の本に関心が向きました。この本は、地図に記された情報が必ずしも常に正確であるとは限らないことを数多くの実例で紹介した本です。特に著者の関心は、政治的な意図で改ざんされた地図にあるようで、戦時中の日本の地図から軍事施設だけでなく多摩湖や狭山湖のような貯水池まで消されていたとか、台湾では現在の中国よりも広い範囲を自国の領土とした「中華民国地図」が刊行されているとか、日本の教材メーカーが地球儀を中国の工場で作らせたために地名表記に中国政府の意図を入れざるを得なくなり、結果的には販売後回収せざるを得なくなったとか、興味深い話題がたくさん紹介されています。古い時代の測量の不正確さからくる間違いとか、地名をめぐる蘊蓄などにもページが割かれているのですが、話題があちこちに飛んで散漫な印象があり、政治と地図に絞ってまとめた方がよかったのではないかと感じました。もう一つ残念なことは、新書版の制約でしょうが、引用された地図が特に大縮尺のものはいかにも不鮮明で読みとりにくいことでした。(2008/10)