『消える日本の自然』(鷲谷いづみ編/恒星社厚生閣/3000円+税)
 副題に「写真が語る108スポットの現状」とあるように自然の変化を示す写真を集めて解説を加えた本です。こうしたテーマの本は、ありそうでなかったもので、過去半世紀ほどを視野に入れた自然環境変化の記録として、さまざまなことに思いをめぐらせながら見ていくことができます。自然環境の変化が温暖化と外来種の影響によって語られることの多い昨今、大規模開発や生物への配慮を欠いた各種事業の影響が非常に大きかったことを改めて思い出させてくれるという意味でも、時宜にかなった出版と感じました。前半のグラビアページは、環境変化を示す写真集で、全国各地の森林や水辺について新旧の写真が並列され、その変化について簡単なコメントが添えられています。大台ヶ原の森林のように、目を疑うような変貌を示している写真も多く、日本の自然に大きな変化が起きたことが実感できます。しかし、すべての写真が雄弁かというと、そうでもなくて、コメントを読んでも変化を十分認識できないケースもありました。実は、私自身相模川河口の新旧の写真を求められたのに、よいものを提供できなかったので、大きなことは言えないのですが、写真で環境を的確に表現することは意外に難しいことのようです。逆に言えば、ある場所の今の状況を記録するにも、アングルや写しこむ範囲、光の条件などをよくよく考えて記録写真をとっておかないといけないということなのでしょう。また、変化については社会的要因によるものがほとんどであり、この本では最終的な評価を生物多様性の観点から下すとは言え、まずは客観的で公平な実態の提示が必要だと思います。その意味で、コメントに出てくる「水田になってしまった」とか「必要以上に生い茂った緑」といった不用意な表現は慎むべきではなかったでしょうか。後半では、森林、草原、湿地、里地里山、川・湖沼、海岸、干潟、サンゴ礁、海中林の9つの項目について、全国的な視野での近年の変化とその原因、生物多様性の観点からそれがどのような結果をもたらしたかについてまとめられています。どの項目
も概論として非常にまとまっており、おおいに参考になりますが、特に川・湖沼の項目は、ダム建設、水質汚染、河原の消失、湧水の衰退、干拓、護岸、外来種など多くの問題が手際よくまとめられていて印象的でした。温暖化については、海洋環境への影響が特に顕著で、サンゴ礁の白化はよく知られているところですが、コンブやアラメのような大きな海藻からなる海中林の衰退にも海水温の上昇が直接間接に影響を及ぼしているそうです。最後の章では、私たちにできることとして、知床、豊岡、泡瀬干潟などでの自然の保護や再生の動きが取り上げられ、さらに14名の著者のそれぞれが具体的な決意表明をしており、力強いメッセージになっています。(2008/10)