『富士山を汚すのは誰か』(野口健著/角川ONEテーマ21/686円+税)
 ヒマラヤや富士山の清掃登山のリーダーとして活躍している登山家の野口健氏の本が刊行されました。氏が清掃登山に取り組むようになったきっかけは、エベレストに登頂し7大陸の最高峰登頂を成し遂げた記者会見で次の目標を聞かれて時にとっさに出た一言であったと言います。その背景には、エベレストの登山ルートで見たゴミの山と、とりわけ日本人登山隊のマナーの悪さが指摘された経験があったようです。その後日本の代表的な山として富士山のゴミ問題にも取り組むようになり、オピニオンリーダーとして活躍しているようすは、しばしばテレビでも目にする通りです。富士山では、登山道だけでなく中腹の青木ヶ原の大型廃棄物にまで関係市町村を巻き込んだ活動を展開するなど、その行動力には目を見張るものがあります。ゴミは真剣に取り組むとなかなか難しい問題で、ボランティアで拾うことはすぐにもできますが、その処理までを含めると大変なコストがかかってしまいます。また、個人的な経験から言うと、清掃を通じてマナーが向上したとしても、それは当たり前のことが守られるようになっただけの話で、環境保全を積極的に前進させたともいえない徒労感を感じることもあります。著者の態度は、そうしたマイナス思考を排し、ゴミ問題にとどまるのではなく、ヒマラヤでは氷河後退や森林衰退の問題、富士山ではどのような形で観光客を受け入れるのが環境にもプラスになるのかというエコツアー的な模索にも考えが及んでいます。今後も、ヒマラヤや富士山という場にこだわって情報を発信し続けてほしいと思いました。(2008/9)