『日本食材百科事典』(講談社編/講談社+&文庫/1480円+税)

 現役を引退して多少は時間のゆとりも出てきたので、およそ二十年ぶりに台所に立つ機会を持つことになりました。そんなこともあってを読んでみました。ふだんの食卓にのぼる食材を、野菜・果物・魚介類・肉・穀物・調味料の6ジャンルに分け、合計約1500種類を紹介した写真図鑑です。これだけの種類数が紹介されていると、珍しい食材も多く、堀川ゴボウ・壬生菜・鹿ヶ谷カボチャのような京野菜の姿を知ることができたり、まだあまり流通していない熱帯フルーツの数々も見ることができました。ズッキーニがキュウリよりもカボチャに近いとか、スイバの栽培品種がソレルという名で流通しているとか、雑学的にも面白い話が多く出てきます。肉の部位とか等級なども図解されていて、なかなか参考になり、一家に1冊あってもよいと思ったりしました。生産や流通の立場にある方が監修しているので、天然物と養殖物の見分け方とか、調理上のヒントなども取り上げられています。ウナギなどの体表のぬるみを「ぬる」と呼ぶとか、新鮮な魚を形容するのに「ぱちんと体が張っている」と表現するなど、業界用語も新鮮に感じました。「食用になっているカニが6000種類ある」とか「鮒寿司」がニゴロブナで作ることがふれていないなど、気になる点もありましたが、全体には非常に興味深く読みました。英名などは出ているのですが、学名が出ていれば類縁や野生種との関係を知るにはよかったとも思いました。(2008/8)