『オタマジャクシハンドブック』(松井正文解説・関慎太郎写真/文一総合出版/1400円+税)

 紹介の季節的なタイミングを失した感がありますが、オタマジャクシと呼ばれる両生類の幼生に焦点をあてた図鑑が初めて刊行されました。南西諸島も含めて、日本産のほぼすべての種類のカエル類とサンショウウオ類の幼生の写真が採録されており、その意味で画期的な図鑑と言えるでしょう。小さいながら各種類について卵と成体の写真も添えられています。しかし、これによって、オタマジャクシの識別が十分できるかと言うと、なかなか難しそうだという印象を受けました。写真だとどれも似通って見えてしまい、識別のポイントとなるような部分については、やはり図を用いて模式的に示すような工夫が欲しかったと思います。たとえば、ニホンアカガエルの背面に1対の黒斑がありますが、写真ではその位置がどの辺かよく分からないのです。また、私の理解不足かもしれませんが、検索図中のアオガエル類の歯式の記述は矛盾があるように思いました。著者の後書きにもあるように、オタマジャクシの形態についての知見の蓄積は必ずしも十分ではないようなので、この図鑑が出発点になって、今後より使いやすい検索表が生まれることを期待したいと思います。ともあれ、オタマジャクシの写真は見ているだけで楽しく、特に扉に使われている正面からの顔の写真は愉快なものでした。(2008/8)