『ペダリスト宣言!』(斎藤純著/NHK出版生活人新書/700円+税)

『銀輪の覇者』(ハヤカワ文庫/上下各760円+税)
 このところ、地球温暖化との関係で、いわゆるエコライフが話題になることが多く、自転車に関する本も続けて出版されています。私は、車の免許を持っていないのでやむを得ずという理由もあるのですが、自転車切手を熱心に収集していた時期もあったほどで、自転車そのものにも相当の愛着と関心を持っています。そこで、1冊くらいは今時の自転車本を読んでみようと手にとったのが、この本でした。ミステリー作家が本業であるという著者は、盛岡市在住で、40才になってからそれまでの車やオートバイに加えて自転車を生活に取り入れ、大きな楽しみを得たといいます。輪行と呼ばれるような、少し長距離のサイクリングが著者の好きな領域らしく、そのための自転車の機種選びに始まり、付属部品やさまざまな関連グッズが事細かに紹介されています。中盤以降では、自転車そのものや自転車レースについて、世界と日本での歴史が簡明にまとめられており、さらに、自転車を通した交通問題とか違法駐輪問題など社会的な課題にも筆が進められています。特徴的なのは著者が職業作家としては珍しく(これは偏見かもしれませんが)地域社会の活動に積極的に参加していることで、盛岡市での「自転車化」の取り組みが相当のページをさいて紹介されています。自転車化というのは、市街地から車を減らし、歩行者と自転車が利用しやすい街に転換することを言うのだそうで、著者らは、「自転車会議」という集まりを立ち上げ、盛岡市の自転車マップを作ったり、市に自転車条例の制定を働きかけているのだと言います(この条例は、「盛岡市自転車の安全利用及び利用促進並びに自転車等の放置防止に関する条例」として今年4月に実現の運びとなったようです)。一人一人の市民が取り組める温暖化対策としての自転車の積極的活用の勧めが、本をまとめるメッセージとなっています。ところで、作家の著作を紹介するのに、エッセーだけでは失礼な気もするのですが、たまたまこの著者には自転車レースを題材にしたミステリーがあるということで、その作品『銀輪の覇者』もついでに読んでみました。この本の舞台は、昭和9年、山口県下関から出発し、青森県まで本州を縦断する賞金つきの自転車レースという設定になっています。それが荒唐無稽な創作かと言えば、そうでもなく、『ペダリスト宣言』によると明治末期から大正時代の日本では公道での賞金つきのサイクルレースが盛んに開かれていたそうで、それがオリンピック出場のためのアマチュア競技化という国策のもとに衰退して行ったのだと言います。さて、『銀輪の覇者』の方ですが、さまざまな職業の強者が一攫千金を夢見てレースに参加し、いろいろな人間模様と思惑の中でレースが展開されるといった内容です。ミステリー色は薄く、むしろスポーツ小説として楽しめるものでしたが、主人公の正体が思わせぶりに最後まで明かされない点、少々カタルシスに欠ける気がしました。著者が、以前テレビドラマになった『モナリザの微笑み』の原作者であることも初めて知ったのですが、そのドラマではオークションハウスのスタッフを演じた岡田准一の株が我が家ではあがったことなどを思い出しました。(2008/7)