『アブラムシ入門図鑑』(松本嘉幸著/全国農村教育協会/2800円+税)
 アブラムシは、身近で観察する機会が多い虫ですが、種類調べまでしないでアブラムシという総称ですませている人がほとんどでしょう。私もその一人なのですが、そうした者にとって、とっつきやすくタイトル通り入門に最適な図鑑が刊行されました。全体は3部に分かれ、第1部では生活史の概説と分類群毎の形態の特徴、第2部は種類別の解説、第3部以降では生息環境、採集と標本制作法、参考文献などがあげられており、非常に行き届いた構成になっています。中心となる第2部の図鑑編では、230種が写真図版として扱われていますが、日本列島からは700種のアブラムシが記録されているそうですから、その3分の1にあたる種を鮮明な生態写真でみることができます。ページをめくっていくと色も形も変化に富んでいますし、複雑な模様を持ったもののおり、野外に出た時に一つ一つルーペで観察してみたくなります。掲載順が、植物別になっているのが図鑑としての大きな特徴で、アブラムシがついていた植物を手がかりに探すことができるように工夫されています。そのおかげで、つい最近撮影した種がコウゾリナヒゲナガアブラムシであるらしいことをすぐに確認することができました。寄主となる植物は、著者が特にこだわっている情報らしく、巻末には植物の種類別の一覧表がついており、本格的に調べてみようという時にはおおいに役立ちそうです。また、1種について複数の写真が使われている場合が多く、有翅虫と無翅虫の違い、コロニー全体のようすなどを知ることができます。季節によって寄主を転換する種では、両方の植物の項で扱われているのもよく工夫されている点だと思いました。たとえば、独特の虫こぶを作ることでよく知られているエゴノネコアシアブラムシはエゴノキの項目だけでなく、夏を過ごすアシボソ類の項目でも扱われています。この本で、初めて知ったことは、アリとの共生関係を持たない種が相当数あるということでした。そうした生活にメリットがあるのか、アリを拒否することができるのかなど想像をめぐらせてみたりしました。(2008/7)