『進化で読み解くふしぎな生物』(北海道大学CoSTEPサイエンスライターズ著/技術評論社/1580円+税)

 進化つながりで、本棚に寝ていたを開いてみました。『骨でみる動物の進化』がいわば進化の大通りを歩いてきたものたちのスマートで機能的な姿の紹介だとすれば、本書はちょっと奇妙な形や生活ぶりを持った動植物を世界中から集めてきて、その進化的な意味や由来を考察しながら紹介したものです。なお、「ふしぎな生きもの」というのがちょっとしたブームでもあるようですが、この本はきわめて科学的な立場での記述が徹底されており、俗な面白本とは一線を画すものです。各生物についてすべて引用文献が示してあり、それをみるとNature誌をはじめ、欧米の専門誌が数多くあげられていて、記述には最新の研究成果が反映されていることを知ることができます。登場する生物は主役としては8章にそれぞれ8種類ずつで、ほ乳類のような大型動物から原生動物、細菌に至るまで多様な分類群が登場します。それぞれの種類が持っている、一見不合理にも思える奇妙な性質が、突然変異と自然選択という進化の原理で説明が可能であることが繰り返し述べられています。シロアリの卵にそっくりの姿をしてシロアリに世話を焼いてもらいながら休眠するというカビ、ヒラムシそっくりの姿で底生生活を送るというベニクラゲムシというクラゲ、寄主に産み込まれたたった1個の卵が1000個もの胚に分裂してその数の幼虫になり、しかもその中に防御専門に特殊化し決して成虫にはならない兵隊虫がいるというコピトソーマというコバチなど、初めて知る生物も多く、最後まで興味深く読むことができました。正体が分かりにくい著者名ですが、これは北海道大学で実践された「科学技術コミュニケーター養成ユニット」という人材開発プログラムの受講者による共同執筆なのだそうで、メンバーには専門研究者はもちろん、ジャーナリスト、ボランティア活動家なども含まれています。今風に言えば科学リテラシーの向上を目指したプログラムなのでしょうが、それが具体的な成果を生んでいるのを見るのは心強いことです。実際、記述は分かりやすく、口調もよくそろっていて10人以上が書いたにしてはいささか没個性的と言いたくなるように整ったものでした。(2008/6)