『骨から見る生物の進化』(ジャン=バティスト・ド・パナフィユー著/河出書房新社/8800円+税)
 170種を越える脊椎動物の骨格標本の写真集で、進化学の立場からのテーマ的な解説を加えた重さ2.5kgもある大著です。何よりも驚くのは、骨格標本写真の美しさで、骨の微妙な凹凸をデリケートな階調で巧みに表現した黒バックのモノクロ写真は、それだけで見ていてあきないものがあります。標本自体は、フランス国立自然史博物館などの収蔵品だそうですが、撮影にとりかかる前に標本自体を整えるのにも膨大な時間がかかったのではないかと思えます。画像処理もされているのでしょうが、普通の骨格標本で見られる骨をつなぐ金具や支柱がまったく写り込んでいないのには驚かされます。また、通常の姿勢ではなく、飛んでいる鳥やコウモリ、獲物に襲いかかるキツネのように動きのある標本もあって、それも見所の一つです。冒頭には、ヒトが馬に乗っているシーンが骨格で再現され、ヒトと馬の骨格の共通性が解説されているのですが、そうしたユーモアは好ましく感じました。他にも興味深い写真がたくさんありますが、ガラガラヘビの尾の先が、骨も太くなっていることは初めて知りました。解説は、オーソドックスなダーウィニズムに基づくもので、進化が合目的な変化ではなく、突然変異によるさまざまな形質の発現と、自然淘汰あるいは性淘汰による選択がその原動力であることが、各所で力説されています。解説を読んでいると、何か分かりづらく引っかかる場所があり、たとえば「カモノハシの頸部と背腰部の椎骨は肋骨で引き伸ばされておらず」というような箇所の内容がよく分かりませんでした。それは単なる理解力不足のためなのか、あるいは原文が不親切なのか、翻訳に問題があるのか少々気になりました。そのこととも関連するのですが、本の前の方で、予備知識として各分類群の基本的な骨の構造や名称について絵解きがされていれば、もっといろいろなことが理解しやすかったのではないかと思いました。(2008/6)