『苔とあるく』(田中美穂著/WAVE出版/1600円+税)

   倉敷市の古書店主にして、コケの愛好家であるという若い女性が書いた入門書というだけで興味をそそられますが、コケという少々特殊な世界への入門書としては出色のできだと思いました。2ページのテキストと2ページの写真やイラストがセットになっている構成で、気楽に読むことができますし、写真は伊沢正名氏によるものなので安心して見ていられます。家の周りの散歩から話が始まり、ルーペを使った観察、採集や標本の作り方など、コケの観察の初歩が一通り紹介されています。さらには、コケの増やし方や食べ方まで、親しみ方のバラエティーも豊富です。このくらいなら、私にもできそうと多くの人が感じるのではないでしょうか。一読した時は、次のステップに進む手がかりがほとんど示されていないことが物足りなく思えました。しかし、よくよく考えてみると、独学の難しいコケのような場合には、同好会に入るとか専門家に教えを請うことが最良の方法なのでしょうから、コケを通じた人とのつながりに言及されているのは、その意味で適切な回答なのだと思い直しました。(2008/4)