『博物館の仕事』(8人の学芸員著/岩田書院/1600円+税)

 2005年に神奈川県博物館協会の50周年を記念して『学芸員の仕事』(岩田書店)という本が刊行されました。この本は、神奈川県内の学芸員50人が、博物館活動のさまざまな場面について分担執筆したものでしたが、裏方としてその編集に関わった8人の学芸員が、今度は執筆者になってそれぞれの館での体験を書いたのが本書です。野外での調査活動、資料の整理、特別展の企画と準備、市民参加による調査、指定管理者問題など、各自が一つのテーマを扱い、日常的な仕事のようすと、その中での悩みや成果が率直に語られています。博物館学の本は少なくありませんが、学芸員が自分の具体的な仕事を語った本は多くないので、特に学芸員を目指す気持ちを持った若い人には大いに参考になると思います。私の同僚である澤村泰彦さんは、「里に降りた星たち」という、月や星と暮らしとの関わりをテーマとした特別展を催した顛末を紹介しています。この特別展は、天文と民俗の境界領域をテーマとしたこと、当初から研究サークルを組織して調査にあたったことなどユニークな試みでしたが、その背景が分かりやすく語られています。横浜開港資料館の西川武臣さんは、財団運営だった館に指定管理者が導入されることになり、その財団が管理者に選定されるまでの苦労を書いています。西川さんが書いているように、博物館の運営に指定管理者を導入することが、本当に利用者の利益にそぐうことなのかについて、行政が十分な説明をしないままに導入に走っている現状は、非常に大きな問題だと思いました。さて、学芸員の大きな仕事の一つは刊行物を作ることであり、親しみ深く読みやすい本を作ることも学芸員の技の一つであるべきだと思いますが、章によって写真があったりなかったりするなど、統一的な編集の意志が感じられないのがちょっと残念でした。また、全体に本稿・筆者・包括・看取など生硬な言葉使いが目立つのも気になった点でした。(2008/3)