『マルハナバチ』(片山栄助著/北海道大学出版会/5000円+税)

「愛嬌者の知られざる生態」という副題がついていて、入門的な本かと思うとさにあらず、マルハナバチ類の生活史に関する高度な内容の専門書です。内容は、2部に分かれていて、1部「生態写真編」は、卵室の建設、産卵、育児、幼虫の発育のようすなど、おもに巣内で撮影された生態写真を収録し、それをやさしく解説したものです。巣箱を利用して撮影された画像のようですが、それにしても生活史の場面場面が鮮明にとらえられていて、どんな装備と工夫で撮影がされたのか知りたくなります。2部「営巣習性の解説編」は、著者の業績を中心に、世界中の文献をレビューしながら、マルハナバチ類の生活史について網羅的なモノグラフとしてまとめられています。分類や分布に始まり、営巣場所、巣の構造、女王による産卵と育児、働き蜂による育児と幼虫の発育、働き蜂の個体差、次世代の生殖虫の生産の順を追って、その生態が属種を比較しながら詳細に述べられています。マルハナバチについて学ぶなら、欠かせない1冊ということができるでしょう。私が、マルハナバチで思い出すのは、学生時代に演習林での実習で、作業員の人が地中から掘り出してくれた蜜壺をなめた時の濃厚な甘さなのですが、その巣は他の社会性のハチと比べると、不規則に積み重なった構造をしており、そうした不規則な物について詳細な記録をしていくのは、さぞかし根気がいることだろうと、妙なところで感心してしまいました。(2008/3)