『シーボルト日本植物誌』(大場秀章監修解説/ちくま学芸文庫/1400円+税)

   シーボルトの日本植物誌は言わずとしれた日本の植物学の黎明を告げる記念碑的な著作ですが、その図版を文庫本で見ることができるとは思いがけないことでした。この文庫は、全部で151の図版をカラーで縮小印刷し、大場氏がそれぞれの種類について解説を加えた構成になっています。数ある日本の植物の中で、約150種を選択した基準が何だったかに興味が持たれますが、その理由に大きく3つの点があったことを知ることができました。一つは生物地理学的にみて東アジア特有の分類群の植物が取り上げられていることで、キブシ・ヤマグルマ・フサザクラなどがその代表的なものです。第二は初めて知ったことでしたが、シーボルトは園芸的な関心が高く、ヨーロッパに導入するにふさわしい花の美しい草木が選ばれているということです。特にシーボルトの関心の高かったアジサイ類には多くのページが割かれています。つまりプラントハンターの目で選んだ植物ということになりますし、編者の解説によれば、シーボルトは持ち帰った植物を実際に販売する仕事も手がけていたのだそうです。第三の選択基準は、日本人の生活に深く結びついた種が選ばれているということで、マツやスギには長文の解説が加えられているといいます。文庫版ですから、図版が小さく、特に解剖図は見やすいとは言えませんが、貴重な出版だと思います。(2008/1)