『野の鳥は野に 評伝中西悟堂』(小林照幸著/新潮選書/1100円+税)

   野鳥の会の活動を長く続けてきたので、創始者である中西悟堂氏について、関心がないわけではないのですが、一世代上の先輩方の敬愛ぶりに多少の反発もあって、あえて深入りしないで過ごしてきたというのが正直なところです。しかし、40代の若い著者が啓発されることが多いと書いているのを読んで、もう一度著書を読み直したり、中西氏の強く主張されていた科学と芸術の融合といったことについて考えてみる必要があると感じました。本書は、評伝として読みやすいし、よく取材もされているようで、新聞記事の引用のしかたなど丁寧な取材を印象づけるものでした。内容的には、屋上緑化の提案とかカスミ網反対運動など、自然保護の実践に重点が置かれていますが、むしろ思想家としての面や、歌人という芸術家としての面について、掘り下げて欲しかったと思いました。晩年、氏が野鳥の会を離れたいきさつにもふれてあるのですが、その「騒動」を観察していた立場から言えば、その大きな原因が中西氏の組織のリーダーとしての資質の不足にあることは明らかでしたので、そのあたりは率直な書き方があってもよかったのではないかと思いました。それを指摘することは、氏の全体的な業績を傷つけることにはならないでしょう。そのことに関係しますが、「造反」したという事務局長について、名前を伏せて扱ったのは、信念を持って行動した当人に対してはなはだ失礼ではないかと思いました。歴史をきちんと記すことも評伝の重要な役目だと思うからです。(2008/1)