『寄生虫博士のおさらい生物学』(藤田紘一郎著/講談社+&文庫/724円+税)

 生物学科の学生さんを相手にすることになったので、さびついた生物学の素養を少しは更新しておこうと読んだ本です。著者によると、現代はクローン・遺伝子治療・遺伝子組み換え・アレルギーなど生物学的な話題が、生活に身近なものとして取り上げらることが多いのにかかわらず、高校の教科書などは生物学に興味をもたらすような魅力が乏しいと言います。そこで、面白い生物学の講義を目指してまとめたのが本書なのだそうです。
 動植物の違いに始まり、細胞の構造と働き・光合成のしくみ・生殖と話が進み、現代的な課題につながるように、遺伝学や遺伝子工学などには多くのページがさかれています。著者の専門である免疫系については特にていねいに解説されており、寄生虫を駆除したことがアレルギー多発に原因になっているという著者の持論にももちろんふれられています。
 解説図も多用されていますが、内容的には相当に高度な印象で、高校生には難しいのではと感じたりしました。また、面白い教科書という意図が達成されたかということになると、名著『笑うカイチュウ』の著者の本として期待が大きかっただけに、今ひとつの感がありました。各章で、話の枕として動植物の具体的な生活が話題にふれてあるのですが、そこの部分に「極寒の冬にヒナのために凍り付く海面に飛び込んで魚をとる海鳥」「カッコウが托卵相手のモズのヒナを食べてしまうことがある」「アメリカザリガニは雌雄の形態が区別できない」「マダケが120年に一度開花する」などちょっと首をかしげる表現が散見されるのも気になるところでした。(2008/3)