『鳥の自然史』(樋口広芳・黒沢令子編著/北海道大学出版会/3000円+税)
 第一線で日本の鳥を研究している研究者17人が、13のテーマでそれぞれの研究について書き起こした最新の鳥学の成果を反映した本です、副題に「空間分布をめぐって」とあるように、生物地理的な視点、分布の変化とその影響、それぞれの種の分布が決定される仕組み、生息環境評価など、地図上の分布に関わる話題を幅広く取り上げた内容になっています。最後は、人工衛星による渡り鳥の追跡、地球温暖化と鳥の生活という注目度の高い話題で締めくくれています。個人的に特に興味を持って読んだ章をいくつか紹介すると、「陸鳥類の集団の構造と由来」では、日本列島の鳥類群集の成り立ちについて、シマセンニュウなどについての遺伝子の解析を通じた新しい手法での解釈を紹介する一方で、分布の比較から分布境界線を推定するという古典的な方法を合わせて示すことで、後者にも一定の意味があることが示されています。移動能力の高いカモメ類の遺伝的構造」では、起源的に古い種とされるウミネコで、予想に反して遺伝子的多様性が低く、比較的新しい時代に急激な個体数の増加が推定されると言います。過去の分布の復元の事例としては、遺跡から出土するアホウドリ類の骨が取り上げられており、縄文時代などには北海道を中心に全国の遺跡から骨が出土しており、現在よりもアホウドリ類の個体数が多かったことが推定されています。第3部「分布のあり方を探る」では、分布の解析のために予測モデルとか、マルチスケール解析といった手法が紹介されているのですが、このあたりになると内容を理解しながらついていくのがなかなか難しいと思いました。保全との関係では、北海道のシマフクロウについて、分布情報と、保護区の所在を地図上で重ねて分析し、どの地域に保護区が不足しているのかを導いた研究が、実用的な意味も大きいと感じました。広域長期のモニタリングの中では、市民参加による情報収集の重要性も強調され、励まされました。全体を通じて、そうとう手強い本で、時間をかけて読むことをお勧めします。(2010/4/4 最終編  これが浜口さんからの最後の配信となりました)