『みどりの市民参加』(木平勇吉編著/日本林業調査会/2381円+税)
 簡潔な表題の、200ページ弱の小さな本なので、気楽に読み始めたのですが、林業あるいは森林経営、さらには地域環境管理に関わる市民参加の歴史と現在、そして今後の展望についての本格的な論考を収めた論文集で、襟を正して読んでいきました。扱われている活動は多岐に渡っており、人工林の手入れ、里山の管理、森林を中心とした地域おこしなど様々ですが、森の場合に参加の内容が、間伐や草刈りのような体を動かす参加と、計画作りに関わるような参加の二重構造を持っている点に大きな特色があるといいます。日本では、こうした意味での市民参加は1980年代から活発になり、発展期を経て、現在はやや停滞期に入っているとされ、そこで本書の主題は次のステップを見いだすための論考とされています。特に、松村正治氏による「里山保全のための市民参加」は、国有林をめぐる市民運動と国の対立などを振り返りながら、なぜ市民参加が求められるようになったかをとらえ、市民による具体的な保全運動の系譜や、その意義についての理論的な論点も含めて簡潔にまとめられ、里山に関わる人には必読の一文になっていると感じました。また、佐藤留美氏による「みどりのコーディネーションNPOの可能性」では、都立公園の指定管理者となった立場から、さまざまな市民団体の活動を調整しながら全体を活性化していくようなコーディネーターあるいはその組織の必要性が強調されていて興味深く感じました。 谷川潔氏による「参加型協議会による自然公園の統合的保護管理」では、イギリスのレイクディストリクト国立公園のパートナーシップ協議会の組織や活動が紹介され、日本と同様の私有地を大きく含む国立公園の運営における市民参加の一つの実例が提示されている。編者の木平勇吉氏は「市民協働による自然再生-「丹沢大山自然再生委員会」の試み-」として、丹沢大山総合調査の結果をふまえて、動き出している再生委員会の現状を報告されています。こうした論考を読み進める中で、こうした地域管理における市民参加や協働は必然的な流れなのだということを再確認するとともに、それはなかなか疲れる仕事でもあろうと感じました。市民参加が、わずか二、三十年の歴史で停滞期に入るという認識は、いささか短いと思うのですが、それはおそらく
個々の当事者の疲れによるもので、理念的な整理によって方向性を見いだす一方で、負担の分担といった解決も重要なのではないかと感じました。(2010/4)