『動物の値段』(白輪剛史著/角川文庫/590円+税)
 動物園や水族館に動物を卸したり、ペットとして販売するために輸入するような仕事をしている動物商による本で、動物園でよく見かけるような動物を買うとなったらいくらかということを中心的な話題に構成されています。登場するのは、40種類ほどですが、中でも値段が高いのは、中国政府が厳密な管理をしていてリース料だけで3億円というジャイアントパンダ、捕獲から飼育にいたるプロセスに膨大な費用がかかりそうなシーラカンスが3億円、シャチが1億円といったところです。一方で、飼育下での繁殖が容易なライオンには45万円という値段がつけられています。値段という切り口にこだわった本ですが、カバは皮膚が非常に弱いので運搬に細心の注意が必要であるとか、シャチのような海獣は少量の水で湿らせて運ぶとか、ラッコを飼うには膨大な餌代は必要になるとか、運搬や飼育に関わる裏話もいろいろ紹介されています。ワシントン条約の記載種であっても許可証を発行する国があるとか、そうした商売事情も出て来ます。条約の遵守や、自然保護への協力についてもたびたびふれられているのですが、それはどうも建前にすぎないのではと思えます。ピグミージェルモアという新顔のネズミ類を見てこれは売れると直感したという著者は、現地で捕獲できるだけ捕獲させ、年間1万匹以上を輸入して売りさばいたと言います。条約記載種ではないので、法にふれる訳ではないのですが、こうした略奪的な資源利用が許されるはずもないと思ったことでした。余談ですが、3月にはワシントン条約の会議が開かれ、クロマグロが話題になりました。マスコミでも大きく取り上げられていましたが、食べたい人、売りたい人の困った、困ったという声を流すばかりで、実のところ資源量はどうなのか、きちんとした把握ができているのかなどについてほとんど情報がなかったのは、まことに寂しいことでした。(2010/4)