『日本の野菊』(いがりまさし著/山と渓谷社/2800円+税)

 ちょっとでも植物相の調査に関わったことのある人なら、野菊というのがなかなかやっかいな分類群だということをご存じでしょう。神奈川県の山地にもサガミギクとかキントキシロヨメナといった難解な存在があっておおいに悩まされますが、その野菊類について、日本列島の自生種を総覧できる図鑑が刊行されました。一般の図鑑では扱われていない変種も多く収録され、充実した内容になっています。部分写真を利用した検索表も多く掲載され、分布図と併用していけば、名前調べに大きな威力を発揮しそうです。野菊の分類については、専門家の間でも見解が統一されていない点も多いようですが、それらについて写真家である著者は現地に足を運び、詳細な観察を通して自分としての整理を示しており、その見解は信頼できるものではないかと感じます。また、視野が国外にも向いているのも特徴で、カワラノギクとそっくりの種が沿海州の湖岸にあるという報告などは、その起源を考える上で重要な情報だと思われます。文献リストも添えられていて、本格的に勉強しようと言う人にもよい手引きになりそうです。分類学的な扱いについてのコメントも多いので、掲載種について命名者なども含めた学名の一覧表をつけておく必要があったと思います。また、分布図のマークが読みとりにくいのも残念でした。(2007/11)