『企業のためのやさしくわかる「生物多様性」』/枝廣淳子・小田理一郎著/技術評論社/1980円+税)
 今秋、名古屋で開かれる生物多様性条約のCOP10を控えて、生物多様性をうたった本を多く見かけるようになりました。企業の方にお話をする機会などもあったものですから、手に取ったのがこの本です。生物多様性ということについての解説に始まり、生態系サービスというとらえ方、その劣化が顕著になって結ばれた生物多様性条約、条約を受けての国家戦略と生物多様性法の制定にいたる動きが手際よくまとめられており、問題の全体像の把握に非常に有用な本だと感じました。国連によって行われた「ミレニアム生態系評価」によって、将来的に大きな不都合が予測されていることも強調されています。企業に対して取り組みが勧められているのは、「企業のための生態系サービス評価(ESR)」という枠組みで、これは、各企業が自社がどのように生態系に依存しているか、事業がどのような影響を生態系に対して与えているか、それらのことがビジネス上のリスクとチャンスにどのようにつながるのかなどを探り出し、それに基づいて戦略を策定していくということだそうです。その中では、これまで商社任せであった原材料の調達についても、それが産地の生態系からの収奪になっていないかの綿密なチェックが必要とされます。今まで日本では、企業と生物多様性の関わりというと、敷地内にビオトープを作るとか保全グループを支援するといった、本業をはなれたおまけの部分しか話題にならなかった気がしますが、それとは違うステージに進んでいることを如実に感じました。本書にも紹介されていますが、昨春には「日本経団連生物多様性宣言」というものが発表され、経済団体での積極的な動きも始まっています。そうした動きをスローガンだけのものにしないためには、市民の眼の役割が重要でしょう。全体的に、わかりやすい記述がされていますが、細部では「北半球から4分の1ものハチが大量死した」(これは飼育されたミツバチに関しての話しではないだろうか)とか「日本人のエコロジカルフットプリントは地球2.4個分」(これは日本列島2.4個分ではないのか)など、いくつか首をかしげる部分がありました。(2010/3)