『大学博物館事典』(伊能秀明編/日外アソシエーツ/9333円+税)

 全国の大学への数次のアンケート調査に基づいて、130大学の162の博物館施設について、創立趣旨、展示テーマ、主要な収蔵資料、アクセス、利用条件などについて総覧できるようにまとめられた資料です。各施設について、数ページずつが割り当てられているので、相当に充実した情報を得ることができます。大学博物館については、1995年に学術審議会から「ユニバーシティー・ミュージアムについて」という報告が出されたことが契機となって、国も積極的に予算計上し、主要な旧国立大学に充実した博物館が設置されました。その収蔵資料点数をみると、北大400万点、東大300万点、京大260万点、九大700万点などの数字が並んでおり、これらの整理が行き届いているのだとすれば、国内最大規模のアーカイブであることは間違いないでしょう。一方で、いろいろ個性的な館もあり、旋盤のような工作機械が技術史資料として動態保存されている館、法隆寺の壁画の模写を中心とした館などに興味を引かれました。薬用植物園が多いことも意外な発見でした。創立趣旨としては、多くの館で、内外の調査活動の過程で収集された資料の保存活用をうたっていますが、その他に創立者の顕彰、著名な卒業生の作品や業績の紹介、大学自体の歴史資料の保存、博物館学実習の場といった記載も目立っていました。また少数ながら大学と地域を結ぶ場とか、学生の発表の場といった位置づけをしている施設もあって、こうした視点は大学博物館の将来を考える上で重要だと思いました。この本のトップに登場する札幌国際大学博物館の長崎館長に、奇しくもこの10月にお目にかかる機会があったのですが、この大学では学生さんが交代で館に詰めて運営を行っているのだそうで、そうした姿にもある種の可能性を感じました。(2007/11)