『環境を知るとかどういうことか』(養老孟司・岸由二著/PHPサイエンスワールド新書/800円+税)
 三浦半島小網代の森の保全活動や、鶴見川流域の市民団体ネットワークなどで大きな実績をあげてこられた岸由二さんが、養老先生を相手に持論を述べられた本です。前半は、岸さんの一人舞台で、小網代の保全の歴史や意義が熱く語られています。いつも、少し斜めから世の中を見ておられる養老先生が、それに対してどんな視点で切り込んでいかれるのかが楽しみだったのですが、ほとんど聞き役に徹しておられ、それは、考え方への共鳴であるのか、実践者への敬意であるのかについてはよく分かりませんでした。後半では、国土交通省の河川局長を務められた竹村公太郎氏が話しに加わり、「流域思考」という視点での討論が繰り広げられます。議論としてはこの部分が面白く、明治時代の廃藩置県によってそれまでの流域をもとにした支配体制が崩されたとか、流域を単位に水や環境のこと考えるのが世界的な潮流になっているとかが、多岐にわたって論じられています。官僚についても話題になっていて、竹村氏は官僚の中に、公務員叩きの風潮の中で、市民と連携した活動は自粛しようという機運が生まれており、市民運動への悪影響を懸念されています。岸さんも、有能な官僚の仕事に期待をされているようで、このあたりは現在の民主政権の方向の中で気にとめておかねばならない点でしょう。今まで、鶴見川流域の活動について、多自然型の川作りとか環境教育的な面とかに目を向けがちだったのですが、防災という面が大きな共通テーマとしてあることに気付かされました。岸さんの言われる、流域思考というのが、どのような背景でどのような広がりを持つものか、充分な理解はできていないのですが、「なんでもかんでも可能なものは、流域で考えたら面白いよ」ということで出発すればよいとのことなので、安心してこの言葉を使っていきたいと思います。(2009/11)