『地球史が語る近未来の環境』(日本第四紀学会編/東京大学出版会/2400円+税)

 火山灰や花粉のような堆積物の解析、氷河や氷床のボーリング調査などさまざまな手法によって過去200万年ほど前までの気候や地形の変遷を明らかにし、さらにそれに大きな影響を与えている人類の活動について分析していく科学が第四紀学と呼ばれるものです。地球環境問題の中で、温暖化が近年の大きな話題になり、近未来の地球環境がどうなっていくかについて関心が集まっていますが、本書では、いろいろな研究成果から、それぞれの研究者がそれについて、どのような予測をしているかが紹介されています。全体で10の各章で扱われているテーマは、温暖化と海面上昇、大規模デルタの変動、東アジアの植物の多様性、ほ乳類の絶滅史、持続的自然資源利用の歴史、ため池の堆積物、地表改変の歴史、上高地の河川植生の将来予測など多岐にわたっており、それぞれの専門家が執筆しているだけに読み応えがあります。今まで単純に信じ込んでいたことが、必ずしもそうでないことを知ったこともあり、たとえば、縄文海進は地球が温暖期に入って極地の氷が溶けて海面があがったためで、その後の海退は再び気温が下がり氷が多くなったためと理解していたのですが、多くの地域での海退の理由は増えた海水の重みで地核がゆっくりゆがんで海底が下がり、反対に陸地が隆起した影響の方が大きいのだそうです。びっくりした話題の一つは、ため池の底にたまった泥の中には木や石炭を燃したことで空中を漂ったススが保存されており、層別に分析することで大気環境の歴史を把握することができるということでした。研究者というのは、思いもかけない着眼から事実をつかみ出すのだと改めて感心しました。また、ありがたかったのは4章で、温暖化の予測は非科学的だとそれを否定する説に対してきちんと反論がされていることです。それによれば、現在では精度の高い気候モデルが確立されていて、自然による変動と人為の影響を入れた計算で、過去100年以上にわたる気候の変動を正確に再現できるようになっているそうです。このモデルに、将来予測される数値を入れると、今後も温暖化が続くこと、その要因として人為的な原因の影響が大きいことが示されるといいます。温暖化への対策が急務なのは間違いのないことのようです。(2007/11)