『樹をめぐる旅』(高橋秀樹著/宝島SUGOI文庫/457円+税)
 釧路湿原から西表島のマングローブまで、日本を代表する森林景観15箇所の紀行兼ガイドです。山とか野鳥渡来地ではなくて、樹木や森に焦点をあてた企画は、意外に少ないのではないでしょうか。白神山地、尾瀬、高尾山、宮島、綾の森、屋久島などポピュラーな場所に混ざって、福井県の気比の松原、福岡県の立花山のクスノキ林などが取り上げられています。立花山は市街地近郊にあるクスノキの巨木林ということで、機会があれば訪ねてみたいと思いました。内容的には、それぞれの場所のプロフィール、現地での印象、関係者からの聞き取り、歴史や伝説といった話題が盛り込まれ、数枚のカラー写真を加えた標準的な構成になっています。こうした本を手にとると、自分でもこうした記事を書いてみたいと思いつつ読むもので、今回はキャッチフレーズの難しさに目が向きました。白神が「人と森が共存してきた豊饒の森」尾瀬が「光きらめく森と水を訪ねて」で、オーソドックスな感じでしょうか。釧路湿原は「湿原に生きる哀愁のハンノキ」ですが、哀愁という言葉がこうした使い道に適したものか疑問に感じました。富士山は「知られざる富士山原始林の記憶」という副題が付けられています。これは、溶岩流の間に噴火の影響から免れて太古の面影を伝えている林分があるということなのですが、知られざるという言葉と記憶という言葉の取り合わせに首をかしげました。(2009/11)