『和暦で暮らそう』(柳生博・和暦倶楽部著/小学館/1400円+税)
 日本野鳥の会の柳生博会長と仕事で御一緒する機会があり、著書の一つである『和暦で暮らそう』を頂きました。この本は、中国の暦法に基づく旧暦が渡来する以前の日本にも、大和民族独自の自然暦、農業暦、祭事暦があったに違いないという前提のもとに、その和暦の実体に迫ろうという意図によって書かれたものです。私も和暦という題名から、とっさに旧暦のことを思い浮かべていましたから、そう言われれれば確かに和暦というものがあったのだろうなあと思ったことでした。「和暦倶楽部」というグループの正体は明かされていませんが、一般市民が集まった研究会なのだそうです。具体的には、万葉集や日本書紀などの記述などが参考にされていますが、柳田国男や折口信夫が多く引用され、民俗学的研究の中で明らかになってきた大和民族の文化について述べられています。和暦とはいっても、祭事に関する考察が中心となっており、新年、七夕、盆、節句の起源や変容が詳しく紹介されています。本のタイトルからは、暮らし方の提案というニュアンスが感じられますが、そのためにはもう少し自然や農事に関わるような内容があるとよかったと思います。日本語に、風とか雨の気象用語が多いことが指摘され、それは風流心があるからではなくて、そうした気象が農業の収穫に影響を与え、また災害から身を守るための必要性によるものだと述べられています。確かにその通りだと思うので、そのあたりをさらに具体的に展開してほしかったと思います。具体的な暦としては、二十四節気とそれをさらに細分した七十二候が一覧表として紹介され、これは旧暦を日本的風土に合わせようと言う工夫が見られるのだそうです。全体の印象としては、和暦という命題への思い入れが強く出過ぎているという感じを受けました。(2009/10)