『ごみゼロへの道』(広瀬立成著/第三文明社/1200円+税)
 「町田市と物理学者の挑戦」と副題にあるように、2006年から2007年にかけて町田市が公募市民によって立ち上げた「町田市ごみゼロ市民会議」のようすを、代表を務めた著者がとりまとめた本です。この会議には、定員をはるかにこえる応募があり、市ではその全員を受け入れる方向を選択し、134名にのぼる市民委員が生ゴミ部会、廃プラスチック部会、その他資源拡大部会に分かれて討議を重ねていったといいます。さらには広報紙を発行するグループが並行して市民に情報を発信していきました。この試みで特に目をひくのは、著者も強調しているように、委員会が社会実験を進めるための予算が1億円も用意してあったということで、そこには市民を信頼する行政の姿があるように感じられます。生ゴミ部会は、その予算を使って、いくつかの団地に生ゴミ処理機を設置し、堆肥の生産に結びつけていきました。生ゴミの資源化は各地でさまざまな形で取り組まれているようですが、大都市近郊での実験として今後の展開が注目されます。私は、町田市の石阪市長とは、野鳥の会の活動を長年一緒にやった仲なので、環境行政で実績をあげていることはとりわけ嬉しく感じました。市民会議は、1年あまりの活動の成果として報告書を作って活動を一段落させたそうですが、著者等は、NPO法人「町田発・ゼロ・ウェイスト宣言の会」を立ち上げて活動を継続しており、その成果の一つとして、全国で初めてレジ袋を全廃したスーパーが現れました。本書は、ゴミ問題の分かりやすい語り口の解説書になっており、諸外国と比べて大規模焼却施設に頼る傾向の強い日本のゴミ政策が批判されています。また、物理学の専門家としての著者の目で見た環境問題についてコラムが設けられ、基礎的なことがまとめられていて参考になります。物理学から見ても、環境について考える時には「つながり」と「循環」が大事だと述べられている点は、そうした言葉をつい生物学の枠の中だけでとらえがちだったと反省をしました。少々気になったこととしては、「微生物」と「菌類」という言葉の使い方に混乱があるのではないかと感じました。また、最後の斎藤前環境大臣との対談の中で里山にふれた中に、「下刈りや枝打ちで手入れをし、太陽の光が地面に届くようにしなければ山は死んでしまいます」というフレーズがあるのですが、人工林はともかくとして里山一般についての表現としては行き過ぎだと思います。(2009/10)